1章 まず永遠がある

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①「かくありたい」と否定

気づけば宿っていた「かくありたい」
 
キルケゴール〈心理学〉におけるもっとも重要な言葉は永遠です。「あなたは気づいていないかもしれませんが、あなたの心の中には永遠があるのです」。キルケゴール〈心理学〉はわたしたちにまっさきにこう言います。

ここ1章では、永遠を「かくありたいと思う気持ち」とおおざっぱに定義します。というのも、キルケゴール〈心理学〉における永遠はかなり複雑なニュアンスを帯びているため、ひと言で「これが永遠です」とは言いづらいからです。詳細は2章に譲り、ここではひとまず、永遠を「かくありたいと思う気持ち」とします。そのうえで時系列に沿って人生が「無理ゲー」になるプロセスを見ていきたいと思います。

かくありたい。すなわち、こうありたいと思う気持ち。これがわたしたちの人生を基礎づけたもっとも重要な気持ちです。たとえば小学生の頃、映画「サウンドオブミュージック」を見て、その主人公マリアのように音楽を愛して生きる人になりたいと思ったなら、その気持ちが「かくありたい」です。ケーキ屋さんになりたい、弁護士になりたいなど、なんらかの「夢」を子ども時代にみなさん抱いたと思います。ここで大切なことは、職業名の奥にある「こんなふうに生きたい」という誠実さのみに支えられているとらえどころのない気持ちが永遠だということです。ケーキ屋さんそのものになりたいというよりか、(たとえば)人々にほんわかとした幸せを提供できる人になりたい(そうありたい)という気持ち、それが永遠です。弁護士それ自体になりたいというより、弱者救済に生涯を捧げる人になりたい(そうありたい)と思う気持ち、それが永遠です。

ところで、なぜ永遠を抱いてしまったのか、あなたはわからないはずです。たとえば、近所のケーキ屋さんを見て「わたしもケーキ屋さんになりたい」と思ったという直接的なことは、(覚えている人は)覚えているでしょう。しかし、ケーキ屋さんを見てなぜケーキ屋さんになりたいと思ったの? と問われて、あなたは答えられますか? ほんわかした幸せな雰囲気に惹かれた? あなたはケーキ屋さん以外にもリカちゃん人形にも花屋さんにも惹かれていたのに、なぜケーキ屋さんに? などと突き詰めて考えていくと、なぜその永遠をあなたが抱いたのか判然としないでしょう。」「気づいたらそう思っていた」としか言えないのではないでしょうか。
哲学は生活に還元できる
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